2019-04-22

孔子関連の本紹介

先日yahooニュースで石平(せき・へい)さんの『なぜ論語は「善」なのに、儒教は「悪」なのか』


が紹介されていたので、早速手に取ってみました。中国の四川省で育ち北京大学を卒業後、神戸大学で博士課程を修了され今は日本に帰化した著者が、中国での教育体験と日本での経験を交えて論語の人生訓としての素晴らしさと、いかに論語が前漢以後に儒教の教義として政治利用されたかを丁寧に解説されています。儒教が孔子本来の思想から離れていった歴史的経緯について知ることが出来ます。また、江戸時代に日本の学者が朱子学が論語の思想とは乖離していることを批判していたことにも言及されています。本書の半分ぐらいを占めるこれらの歴史的な話は飛ばし読みしてしまいましたが、前半部に紹介されていた孔子の人物像については私が想像していた通りでしっくりきました。

孔子については井上靖の最後の小説がそれこそ『孔子』


だったので昔から興味を持っていました。この小説は孔子の架空の弟子による述懐のなかに時折井上靖独特の叙情的な描写が入り混じっている不思議な形式の小説で、読み進めるのに苦労した記憶がありますが、好きな作家の最後の小説ということで頑張って読了しました。残念ながら孔子の人物像についてあまり記憶が残っていないのですが、夕暮れ時に家の前にともされる灯りを見るといつもこの小説のことを思い出します。小説の最後のあたりに描写されているとても叙情的な風景です。読了後は井上靖は最後まで詩人だったなと感慨を抱いた記憶があります。

孔子について書かれているものの中でこれまでで一番印象的で良かったのは白川静先生の『孔子伝』


です。漢字の成り立ちの研究をされ古代中国の文献に精通している著者が(学術的に裏付けのある)想像を巡らして孔子の実像に迫っています。孔子がシャーマン(巫女)の私生児であったという説は今では定説ようですが、神事と漢字の成り立ちの深い関係を解き明かされた白川先生にそう指摘されると説得力があります。

論語については上の子がまだ保育園だったころに


を一緒に読んだことがあります。意味も分からず復唱させました。(下の子の時はバイオリン教室の課題で小林一茶の俳句を100首覚えさせられたので論語までは手が回りませんでした。)社会人向けの本もいろいろあるようですが、私がいま手元に置いているのは


です。著者は一万円札で今話題沸騰中の渋沢栄一です。解説が地球物理学者で科学雑誌ニュートン創刊者の竹内均先生というのも興味深い組合せです。これも孔子という人の奥深さによるのでしょう。

漢字文化圏の我々にはなじみ深い論語ですが、キリスト教文化圏の欧米の人達には分かりづらいかもしれませんね。孔子の教えは儒教 Confucianism と訳され、ともすると宗教と勘違いされやすいですが、私の印象では論語の教えをあえて訳すとすると Common Sense が適当なような気がします。

追記:翌月のエントリーでも紹介したとおり孔子についての入門書としては


がお薦めです。すべて読み通したわけではありませんが、専門家が著したものだけあって内容が豊富でこれまでのものよりも読みごたえがありました。

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