12.2 リー群の幾何学的側面
前節ではリー群の概要について復習した。今節ではリー群を幾何学的な視点から考察する。まず、SU(2) 群について調べ、その一般化を考える。結論として、リー群は一般にリーマン多様体と解釈できることを示す。
SU(2) 群
SU(2) 群の要素は 2×2 特殊ユニタリー行列
u=eiH, detu=1
で与えられる。ここで、H は 2×2 トレースレス・エルミート行列である。一般に、H はパウリ行列を用いて
H=σi2θi (i=1,2,3)
と表せる。よって、SU(2) 群の要素は
g(θ)=u=exp(iσi2θi)
とパラメータ表示できる。これは
1.2節の(1.38)と同じである。要素
u の変分は(線形のオーダーで)次のように計算できる。
u+du=exp(iσk2(θk+dθk))=1+iσk2(θk+dθk)+i22!σk2σl2(θk+dθk)(θl+dθl)+⋯=u+iσk2dθk+i22!(σk2σl2+σl2σk2)θkdθl+⋯=u+iσk2dθk+iσk2θkiσl2dθl+i22[σl2,σk2]⏟=iϵlkmσm2θkdθl+⋯=u+(1+iσk2θk)[iσl2dθl−i2ϵlkmσm2θkdθl]+⋯≡u+iuσm2Eml(θ)dθl
ただし、Eml(θ) は
Eml(θ)≃δml−12ϵm lkθk
と表せる。すなわち、
u−1du=iσm2Eml(θ)dθl
g−1dg=iTkdθk
の具体的な形を与える。リーの第1定理からexp(iσk2(θk+dθk)) の級数展開とその収束が保証されていることに注意しよう。
前節で議論したように
Eml(θ) は微分演算子
Xi=i(E−1)ki∂∂θk の定義に必要な量であり、この微分演算子は対応するリー代数を成す。よって、
Eml(θ) はリー群の解析に非常に重要な量である。以下で見るように、
u の行列成分から
Eml(θ) を直接計算することもできる。
u は
2×2 ユニタリー行列で表せるので
u=a1+biσi=(a+ib3ib1+b2ib1−b2a−ib3)
とパラメータ表示できる。ただし、a, bi (i=1,2,3) は実数である。条件 detu=1 から
a2+b21+b22+b23=1
が分かる。これより、簡単に u†u=1 を確認できる。ただし、u†=u−1=a1−ibiσi である。関係式(12.21)は SU(2) 群を3次元球面 S3 と解釈できることを意味する。ここで、a=√1−b⋅b を用いると、
du=da+idb⋅σ=−b⋅dba+idb⋅σ
と書ける。ただし、恒等行列 1 を省略した(以下同様)。このとき、u−1du は次のように計算できる。
u−1du=(a−ib⋅σ)[−b⋅dba+idb⋅σ]=−bidbi+iadbiσi+ibibjaσidbj+bidbjσiσj=iσi[adbi+bibkadbk+ϵijkbjdbk]≡iσi2Eik(a,b)dbk
ただし、関係式 σiσj=δij+iϵijkσk を用いた。これより、興味ある量 Eik(a,b) は
Eik(a,b)=2(δika+bibka+ϵijkbk)
と求まる。
SU(2)群のカルタン-キリング計量
SU(2) 群の計量はカルタン-キリング計量
ds2=−2Tr(u−1duu−1du)
で定義される。この計量は多くのアイソメトリーを持つ。実際、そのようなアイソメトリーの集合は SU(2) 代数を成す。関係式(12.23)を用いると、カルタン-キリング計量は
ds2=−2Tr(iσa2)(iσb2)EaαEbβdbαdbβ=EaαEaβdbαdbβ
と表せる。
8.2節の(8.13)で議論したように曲がった多様体上の計量
ds2 はフレーム場
eaμ を用いて
ds2=gμνdxμdxν=eaμeaνdxμdxν と定義される。したがって、
SU(2) 群を計量(12.26)をもつ曲がった多様体とみなすと、上式は
Eaα が
SU(2) 群のフレーム場を与えることを示す。この意味で
u−1du はフレーム場1形式と呼べる。
一般化とモーレー-カルタン恒等式
以上 SU(2) の場合を扱ったがこれらの結果はスムーズに一般化できる。リー群 G の要素を g(θ) とすると、G のカルタン-キリング計量 ds2 はフレーム場1形式
g−1dg=itaEaα(θ)dθα
を用いて
ds2=−2Tr(g−1dgg−1dg)=EaαEaβdθαdθβ
と定義される。ただし、ta (a=1,2,⋯,dimG) はリー代数 G の生成子の行列表現であり、規格化 Tr(tatb)=12δab のもと、
[ta,tb]=iCabctc
を満たす。Cabc はリー代数の構造定数である。(12.27)から次の量を定義できる。
Aα≡g−1∂g∂θα=itaEaα
パラメータ θα による Aβ の微分は
∂∂θαAβ=(−g−1∂g∂θαg−1)∂g∂θβ+g−1∂2g∂θα∂θβ=−AαAβ+g−1∂2g∂θα∂θβ
と計算できる。ただし、関係式 ∂g−1∂θα=−g−1∂g∂θαg−1 を用いた。この関係式は ∂∂θα(gg−1)=0 から自明である。微分を反対称化させると恒等式
∂αAβ−∂βAα+[Aα,Aβ]=0
を得る。これはモーレー-カルタン恒等式と呼ばれる。フレーム場で表すとこの恒等式は
∂αEaβ−∂βEaα−CabcEbαEcβ=0
と書ける。EbαEcβ の因子を反対称化させると、上式は
∂αEaβ−∂βEaα−12Cabc(EbαEcβ−EbβEcα)=0
とも表せる。
上式の左辺は
8.2節の(8.22)で定義されたトーション
Taμν と類似していることに注意しよう。このトーション
Taμν を書き下すと
Taμν=∂μeaν−∂νeaμ+ωabμebν−ωabνebμ
となる。ただし、ωabμ はスピン接続である。モーレー-カルタン恒等式(12.34)とトーション・ゼロの条件式 Taμν=0 には構造上の類似性がある。そこで、モーレー-カルタン恒等式(12.34)の解あるいは解釈を関係式(12.35)との比較で考えてみよう。