2019年12月4日

高次元共形場理論がすごい!

近刊の紹介です。中山優著『高次元共形場理論への招待 3次元臨界 Ising 模型を解く』


です。結論から言うと、とにかく素晴らしい解説書なので最近の理論物理学の発展に興味ある方はぜひ手に取ってみてください。タイトルにあるように招待されるがままに読み始めると流れるようなナラティブに引き込まれ、一気に読み進めました。途中からテクニカルな部分は飛ばしながらでしたが、読みながら著者の明快な解説に納得しきりでした。特に後半部分は知らなかったことばかりでとても勉強になりました。また本文だけでなく脚注のコメントも機知に富み楽しめました。「こういう本が読みたかった!」と物理の教科書を読んで久しぶりに感動しました。

以前のエントリーで紹介したナイアのエッセイでも言及されている通り、最近の理論物理学の成果として3次元イジング模型の臨界指数が共形ブートストラップの手法で精度よく求められることが知られています。水の臨界点に代表される相転移現象は、一般に臨界現象の普遍性 (universality) から3次元イジング模型を用いて解析できるのでこの成果は画期的なことです。2次元の場合は臨界点での臨界指数を2次元共形場理論で分類できることが知られていましたが、3次元の場合も同様に共形不変性から臨界指数を求めることができるという最先端の話を共形場理論の基礎から分かり易く・楽しく解説されています。特に、(3次元以上の)高次元共形場理論の基礎的だけど難解で敷居の高い内容(例えば、4点相関関数の導出、共形代数の表現論、共形ブロックなど)を扱う日本語の教科書は(私の知る限り)本書が初めてでしょう。これらの準備を踏まえて最終的に共形ブートストラップの手法が丁寧に解説されています。具体的には、$\mathbb{Z}_2$対称性を持つ3次元共形場理論の4点相関関数の自己無撞着条件から3次元イジング模型の臨界指数(の存在可能範囲)を数値的に求めるプログラムを紹介しています。この分野の第一人者の一人である著者でなければ書けない内容ばかりではないでしょうか。若い研究者、学生さんは是非この本で高次元共形場理論を勉強してください。

なんといっても我々が普段目にする自然現象が3次元の共形不変性から数値的に説明できるというのは驚きです。相転移と臨界現象については歴史的な側面も含めて田崎・原著『相転移と臨界現象の数理』


で詳しく解説されています。中山さんの近著はこれら伝統的な臨界現象の理解と共形ブートストラップを使った最先端の理解との間のギャップを埋めることを目標にして著されたそうですが、見事にその目標を達成されています。

3次元以上の共形場理論は、AdS/CFT対応との関連もあり最近の素粒子論の重要なテーマの1つです。特に4次元の(超)共形場理論である${\cal N}=4$ 超対称ヤン・ミルズ理論は今や高エネルギー物理の中心的なテーマであり、専門家の中にはこの理論は量子力学における調和振動子のような基本的な存在であると言う人もいます。私も散乱振幅の計算からこの理論について研究しましたが、(超)ツイスター空間を使って4次元理論を2次元の共形場理論として理解できるかということに主眼を置いていました。また、個人的には2次元の理解も怪しいので高次元共形場理論の近年の発展については興味深く傍観しているだけでしたが、今回、中山さんの本のおかげで高次元共形場理論の理解も深まり興味が湧いてきました。

2次元の場の理論においては、局所的な相互作用がある場合、スケール不変な理論は代数的に共形不変な理論とみなせることが知られています(例えば、こちら)が、高次元の場合にも同じようなことがいえるのかは知られていませんでした。中山優さんは、以前からこのような問題について精力的に研究されており、その成果は有名なレビューにまとめられています。このように細かいところまで納得いくまで探究する姿勢は本当に頭が下がります。近著には著者のそのような姿勢が随所に見受けられて刺激を受けました。

物理系を記述する量子論は2通りに定義できます。1つは観測量の満たす代数の規約ユニタリー表現によって、もう1つは対象となる粒子/場の相関関数によってです。私が学生のころは前者の定義付けから2次元フェルミオン系のボソン化などを学びました(例えばこちら)が、もう一方の視点が最近では注目されているようです。つまり、対象となる場の相関関数を定義することから直接物理系を解析しようという試みです。ラグランジアンやハミルトニアンを知らなくても相関関数から物理を議論できる場合があります。2次元共形場理論はその典型ですが、ツイスター空間を使うと4次元のグルーオンのある種の散乱振幅も実質的に2次元共形場理論の相関関数で記述できることが知られています。ラグランジアンを使わない理論は現代の場の量子論の主流ですが、今後益々その流れが加速しそうです。

最後に共形ブートストラップの数値計算用のソフトウェアが公開されているそうなので関連するURLを貼っておきます。

https://github.com/tohtsky/cboot
https://gitlab.com/bootstrapcollaboration
https://bootstrapcollaboration.com/

興味ある方はぜひ参考にしてみてください。

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