2025-08-15

13. ウィグナーの $\D$ 関数とその応用 vol.10

13.3.3 Case-Gasiorowicz-Weinberg-Witten の定理


ケイス-ガシオロウィッツ-ワインバーグ-ウィッテン (Case-Gasiorowicz-Weinberg-Witten) の定理(ワインバーグ-ウィッテンの定理と呼ばれることが多い)はつぎの2つの主張から成る。
  1. スピンが $> \hf$ となる質量ゼロの荷電粒子は存在しない。
  2. スピンが $> 1$ となる質量ゼロの粒子のうち保存エネルギー・運動量テンソルを持つものは存在しない。
この Case-Gasiorowicz-Weinberg-Witten (CGWW) の定理は元々1960年代にケイスとガシオロウィッツによって示され、1980年代にワインバーグとウィッテンによって改めて示された。以下では、この定理を行列要素の選択則として簡単に証明する。


質量ゼロ1粒子状態とその規格化

 質量ゼロの粒子の4元運動量を $p^\mu = ( \om , \vec{p} )$ をとする。ただし、$p^0  = \om$ は $\om = |\vec{p}|$ の値をとる。また、4元電流密度 (4元カレント) を $J^\mu  = ( J^0 , \vec{J})$ とおく。ただし、$J^\mu$ は電荷の保存則 $\d_\mu J^\mu = 0$ を満たす。以下では、1粒子状態 $| p \ket$ と $| p^\prime \ket$ で挟まれた $J^\mu$ の行列要素 $\bra p^\prime | J^\mu | p \ket$ に注目する。そこで、まずこれらの1粒子状態について考える。$p$-積分のローレンツ不変な積分測度は
\[    d \mu (p ) \, = \, \frac{d^3 p}{( 2 \pi )^3 } \frac{1}{2 \om}     \tag{13.180} \]
と表せるので、状態 $| p \ket$ の完全性は
\[     \int | p \ket  \frac{d^3 p}{(2 \pi )^3} \frac{1}{2 \om} \bra p | \, = \, 1    \tag{13.181} \]
と書ける。このとき、状態の正規直交性は条件式
\[    \bra p^\prime | p \ket \, = \, (2 \pi )^3 \, 2 \om \, \del^{(3)} ( \vec{p}^{\, \prime}  - \vec{p} )    \tag{13.182} \]
と表せる。粒子が空間体積 $V= L^3$ の立方体の中にあるとみなし、計算の最終段階で$V \rightarrow \infty$ の極限をとるものとする。このとき、 空間座標の周期的境界条件から $\vec{p}$ は
\[    \vec{p} = \frac{2\pi \vec{n}}{L}    \tag{13.183}\]
と表せる。ただし、$\vec{n} = ( n_1 , n_2 , n_3 )$ であり、各成分 $n_i$ $(i=1,2,3)$ は整数の値をとる。これらの成分を用いて $p$ と $p^\prime$ のクロネッカーのデルタは
\[    \del_{p, p^\prime } \, = \, \del_{n_1 , n_1^\prime } \del_{n_2 , n_2^\prime } \del_{n_3 , n_3^\prime }     \tag{13.184} \]
と定義できる。デルタ関数 $\del^{(3)}( \vec{p} - \vec{p}^{\, \prime} )$ を用いると(最終的に $V \rightarrow \infty$ の極限をとるとの理解のもと)$\del_{p, p^\prime }$ は
\[    \del_{p, p^\prime } \, = \,  \frac{(2 \pi)^3}{V} \del^{(3)}( \vec{p} - \vec{p}^{\, \prime} )    \tag{13.185} \]
と表せる。よって、直交性(13.182)より1粒子状態を
\[    | \widetilde{p} \ket  \, = \, \frac{| p \ket}{\sqrt{2\om V}}    \tag{13.186} \]
と規格化すると正規直交条件は $\bra \widetilde{p } | \widetilde{p}^{\prime } \ket  \, = \, \del_{p, p^\prime}$ と表せることが分かる。以下では簡単のため規格化された1粒子状態 $| \widetilde{p} \ket$ を $|p \ket$ と再定義する。すなわち、以下の議論では正規直交条件として
\[    \bra p  | p^{\prime } \ket  \, = \, \del_{p, p^\prime}    \tag{13.187} \]
を用いることにする。

行列要素の計算

 つぎに、正規直交条件(13.187)を用いて行列要素 $\bra p^\prime | J^\mu |  p \ket$ を計算する。$J^0$ は電荷密度を表すので粒子の電荷演算子は
\[    \widehat{Q} \, = \, \int d^3 x \, J^0      \tag{13.188} \]
で与えられる。1粒子状態 $| p \ket$ に作用する演算子 $\widehat{Q}$ の固有値が粒子の電荷 $Q$ である。
\[ \widehat{Q} \, | p \ket \, = \, Q \, | p \ket  \tag{13.189} \]
これより、$| p^\prime \ket \rightarrow | p \ket $ の極限における行列要素 $\bra p^\prime | \widehat{Q} | p \ket$ として電荷 $Q$ を定義できる。
\[ \lim_{p^\prime \rightarrow p} \bra p^\prime | \widehat{Q} | p \ket  \, = \,  \lim_{p^\prime \rightarrow p} \int \! d^3 x \, \bra p^\prime | J^0 | p \ket   \, = \,  V  \frac{Q}{V}  \, = \, Q \tag{13.190} \]
よって、$| p^\prime \ket \rightarrow | p \ket $ の極限で行列要素 $\bra p^\prime | J^0 | p \ket$ は
\[    \lim_{p^\prime \rightarrow p}    \bra p^\prime | J^0 | p \ket    \, = \, \frac{Q}{V}    \tag{13.191} \]
で与えられる。$V$ は空間体積なのでこれは確かに電荷密度を与えることが分かる。4元カレント $J^\mu$ はローレンツ共変であり $\d_\mu J^\mu = 0$ を満たすので、$J^\mu$ の行列要素は
\[ \lim_{p^\prime \rightarrow p} \bra p^\prime | J^\mu | p \ket  \, = \, Q \frac{p^\mu}{ \om V}  \tag{13.192} \]
と表せる。$p^\mu$ と $p^{\prime \mu}$ は質量ゼロ粒子の4元運動量なので、$p \cdot p = p^\prime \cdot p^\prime = 0$ であり、
\[    ( p + p^\prime )^2 \, = \, 2 p \cdot p^\prime \, = \,    2 \om \om^\prime (1 - \cos \th ) > 0    \tag{13.193} \]
を満たす。ただし、$\th$ は $\vec{p}$ と $\vec{p}^\prime$ の間の角度である。上式は $( p + p^\prime )^\mu $ が time-like ベクトルであること、つまり、計量 $(+---)$ のもとで時間成分が空間成分より優勢になることを意味する。よって、$\vec{p} + \vec{p}^\prime = 0$ となるフレームを選ぶことができる。(これは $\cos \th = -1$ に対応する。) すなわち、中心運動量フレーム
\[    p^{\mu} = ( \om ,  \vec{p} ) \, , ~~~    p^{\prime \, \mu} = ( \om , - \vec{p} )     \tag{13.194} \]
を採用できる。このとき、行列要素 $\bra p^\prime | J^\mu | p \ket $ は $\bra \! -  \vec{p} |  J^\mu  | \, \vec{p} \ket$ と表せる。

 ここで、$\vec{p}$ 方向の角運動量演算子を $L_{\hat{p}}$ とすると、定義から
\[    e^{ i L_{\hat{p}} \phi} | \, \vec{p} \ket     \, = \, e^{i s \phi} | \, \vec{p} \ket \, , ~~~    e^{ i L_{\hat{p}} \phi} | \!\! - \!  \vec{p} \ket     \, = \, e^{- i s \phi} | \!\! - \!  \vec{p} \ket    \tag{13.195} \]
と書ける。ただし、$s$ は質量ゼロ粒子のスピン (ヘリシティとも言う) であり、$\phi$ は $\vec{p}$ を軸にした回転量 (ゼロでない角度) を表す。上式から行列要素 $\bra \! -  \vec{p} |  J^\mu  | \, \vec{p} \ket$ は
\[\begin{eqnarray}    \bra  \! -  \vec{p} | \, J^\mu \, | \, \vec{p} \ket    & = &    \bra \! -  \vec{p} |    ~ e^{-i L_{\hat{p}} \phi } \,    e^{i L_{\hat{p}} \phi }    \, J^\mu    \, e^{-i L_{\hat{p}} \phi }    e^{i L_{\hat{p}} \phi }~    | \, \vec{p} \ket    \nonumber \\    &=&    e^{i 2 s \phi }   \, \bra \! -  \vec{p} | ~    e^{i L_{\hat{p}} \phi }    \, J^\mu    \, e^{-i L_{\hat{p}} \phi } ~    |  \, \vec{p}  \ket    \nonumber \\    &=&    e^{i 2 s \phi } \,  \D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} )  \,    \bra  \! -  \vec{p} | \, J^\nu \, | \, \vec{p}  \ket    \tag{13.196} \end{eqnarray}\]
と表せることが分かる。ただし、$\D$ 関数  $\D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} )$ は
\[ e^{i L_{\hat{p}} \phi }    \, J^\mu    \, e^{-i L_{\hat{p}} \phi }    \, = \,    \D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} )  \,    J^\nu   \tag{13.197} \]
と定義される。これは、13.2節で解説したように ウィグナーの $\D$ 関数が一般に
\[    U^{-1} (\th ) \, Q^{A} \, U  (\th )    \, = \,    \D^{(R)}_{AB} ( g ) \, Q^B    \tag{13.70} \]
と定義されることからも分かる。(13.197)の $\D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} )$ は回転群 $SO(3)$ のスピン1表現 $(l = 1)$ で与えられる。その具体的な形は13.2節
\[    \D^{ab} ( g) \, = \, \exp \left[ i ( T^c )^{ab} \th^{c} \right]     \tag{13.63} \]
\[    \D^{m^\prime m} ( g ) \, = \,  \D_{m^\prime m}^{(l = 1)} ( g )      \tag{13.67} \]
の通りである。ただし、$g$ は $SO(3)$ 群の要素であり、$( T^c )^{ab} = - i \ep^{abc}$ は $SO(3)$ 群の構造定数を表す。添え字 $a$, $b$ は空間座標 $(1,2,3)$を表し、$m$, $m^\prime$ は球面基底
\[    x^{\pm } = \frac{1}{\sqrt{2}} ( \mp x^1 - i x^2 ) \, , ~~ x^3     \tag{13.65} \]
の座標 $(\pm , 3 )$ を表す。いまの場合、$\vec{p}$ を $x^3$ 方向に指定できるので(13.197)の $\D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} )$ は
\[ \D^{ m m^\prime} \! ( e^{i \phi} ) \, = \, \exp \left[ \ep^{m m^\prime 3 } \phi \right] \tag{13.198} \]
と書ける。ただし、時間成分は空間回転に関与しないので添え字 $\mu$, $\nu$ を 球面基底座標 $m$, $m^\prime$ に置き換えた。$\ep^{+-3} = i$, $\ep^{-+3} = -i$, $\ep^{++3} = \ep^{--3} = 0$ に注意すると、$\D^{ m m^\prime} \! ( e^{i \phi} )$ の値は
\[ \D^{ m m^\prime} \! ( e^{i \phi} ) \, \in \, \{ e^{\pm i \phi} , \, 1  \} \tag{13.199} \]
に限られることが分かる。

 関係式(13.196)から $e^{i2 s \phi }  \, \D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} ) = 1$ となる場合がなければ、行列要素 $\bra \! -  \vec{p} | J^\mu | \, \vec{p} \ket$ はゼロとなる。一方、(13.192)から
\[ \lim_{| \! - \! \vec{p} \ket  \rightarrow | \, \vec{p} \ket } \int \! d^3 x \,  \bra \! -  \vec{p} | J^\mu | \, \vec{p} \ket  \, = \, Q  \, \hat{n}^\mu  \tag{13.200} \]
と表せる。ただし、$\hat{n}^\mu = ( 1, 0,0,1 )$ である。よって、荷電粒子 $( Q \ne 0 )$ に対して行列要素 $\bra  - \! \vec{p} | J^\mu | \, \vec{p} \ket $ は ($| \! - \! \vec{p} \ket  \rightarrow | \, \vec{p} \ket$ の極限で) ゼロとならない。したがって、質量ゼロの荷電粒子が存在するためには少なくともある$(\mu , \nu )$ の組み合わせに対して
\[    e^{2 i s \phi } \, \D^{\mu \nu}  \! ( e^{i \phi} ) \, = \, 1  \tag{13.201} \]
が成り立つ必要がある。(13.199)を用いるとこの条件式(13.201)はスピンが $2s \le 1$ の場合にのみ満たされることが分かる。よって、CGWW 定理の一つ目の主張が示された。

 CGWW 定理の2つ目の主張についても同様にエネルギー・運動量テンソル $T^{\mu \nu}$ の行列要素 $\bra p^\prime | T^{\mu \nu} | p \ket$ を用いて示すことができる。ただし、$T^{\mu \nu}$ はエネルギー保存則 $\d_\mu T^{\mu\nu} = 0$ を満たす。$T^{\mu \nu}$ はランク2の対称テンソルなので(13.197)に対応する $\D$ 関数は回転群 $SO(3)$ のスピン2表現 $(l = 2)$ で与えられる。13.2節
\[    T^m \, = \, r^2 \, Y_2^m ( \vartheta , \varphi) \, \longrightarrow \,    T^{m^\prime  } \,= \, r^2 \, \D_{m^\prime m}^{(l = 2)} ( g ) \,  Y_2^m ( \vartheta , \varphi )    \tag{13.69} \]
で紹介したようにこの $\D$ 関数は $ \D_{ m m^\prime}^{(l=2)} ( g ) $ で表せる。ただし、$m$, $m^\prime$ は $(0, \pm 1 , \pm 2 )$ の値をとる。よって、行列要素 $\bra \! - \! \vec{p} | T^{\mu \nu} | \, \vec{p} \ket$ の計算に現れる $\D$ 関数は $\D_{ m m^\prime}^{(l=2)} ( e^{i \phi} )$ で与えられる。スピン1表現の場合と同様に、これは
\[ \D_{ m m^\prime}^{(l=2)} ( e^{i \phi} ) \, \in \, \{ e^{\pm i 2 \phi} , \,  e^{\pm i \phi} , \, 1  \} \tag{13.202} \]
と計算できる。ただし、$m, m^\prime = (0, \pm 1 , \pm 2 )$ である。したがって、条件式(13.201)を適用すると、保存エネルギー・運動量テンソルをもつ質量ゼロの粒子はスピン $s$ が $s \le 1$ の場合にのみ存在することが分かる。これより、CGWW 定理の2つ目の主張が示された。

 以上の証明では行列要素を評価するに当たりウィグナーの $\D$ 関数を利用した。この手法は13.2節で紹介したウィグナー-エッカルトの定理の導出と類似している。(例えば、13.2節の(13.70)を参照のこと。)この意味で CGWW 定理の証明はウィグナー-エッカルト型の応用例の1つであると見做せる。

例外

 重力子は質量ゼロのスピン2粒子であるが、保存エネルギー・運動量テンソルを持たない。よって、重力子に CGWW の定理は適用されない。10.3節で議論したように完全流体のエネルギー・運動量テンソルは $T^{\mu\nu} = ( \rho + P ) u_\mu u_\nu - P g_{\mu\nu}$ と定義される。(式(10.36)参照のこと。)静止フレームで考えるとこれは保存テンソル $\d_\mu T^{\mu\nu} = 0$ であることが簡単に確認できる。しかし、重力子の場合、重力子は局所フレームと共に変換するのでエネルギー・運動量テンソルは保存量ではない $( \d_\mu T^{\mu\nu} \ne 0 )$。つまり、重力子に対して局所的なエネルギー・運動量密度を定義することはできない。保存則がどのように破れているかは次の2つのアプローチで理解できる。1つ目は、保存則 $\d_\mu t^{\mu\nu} = 0$ が成り立つようなエネルギー・運動量の擬テンソル $t^{\mu\nu}$ を構成する方法である。2つ目は、エネルギー・運動量テンソル $T^{\mu\nu}$ が共変保存 $D_\mu T^{\mu\nu} = 0$であるような共変微分 $D_\mu$ を導入する方法である。これらの $t^{\mu\nu}$, $D_\mu$ は実際に存在するが、どちらの場合も CGWW 定理の要請 $\d_\mu T^{\mu\nu} =0$ に反する。超重力理論 (supergravity) に現れるグラヴィティーノ (gravitino) とよばれる質量ゼロのスピン $\frac{3}{2}$ 粒子にも同様の議論を敷衍できる。なお、超重力理論はスピン2の重力子(ボース粒子)とスピン$\frac{3}{2}$ のグラヴィティーノ(フェルミ粒子)の両方を含む重力理論であり、局所的な超対称性変換のもとでの不変性をもつ。

 非アーベル型ゲージ理論のグルーオンは電荷を持つことのできる質量ゼロのスピン1粒子である。しかし、グルーオンは保存カレントを持たないので、CGWW の定理はグルーオンの場合にも適用されない。ゲージ理論では4元カレント $J^\mu$ は保存されない $( \d_\mu J^\mu \ne 0 )$ が、$J^\mu$ は共変的には保存される共変保存量である $( D_\mu J^\mu = 0 )$。ただし、$D_\mu$ は共変微分を表す。グルーオンに対して CGWW の定理が適用できないことは、ゲージ不変な電荷あるいは4元電流密度 $J^\mu$ を定義できないことからも理解できる。つまり、1粒子の物理状態は $| p \ket$, $| p^\prime \ket$ ゲージ不変である必要があるので、$J^\mu$ がゲージ不変でない限り行列要素 $\bra p^\prime | J^\mu | p \ket$ を適切に定義できず、CGWW 定理の適用範囲外となる。


参考文献

0 件のコメント: