前回のエントリーの続きです。2回に渡り長々と$K^0 \bar{K^0}$系の弱い相互作用に現れる$CP$対称性の破れについて議論してきましたが、最初のエントリーの冒頭でも触れたように「$CP$対称性の破れは理論上は存在してもおかしくない反物質がなぜ我々の世界には見られないのかを説明する有力な手掛かりとなっている」のでその点について今回は、以前こちらで紹介したナイアの最近の教科書
弱い相互作用の$CP$対称性の破れは1960年代の素粒子物理学が理論・実験共に黄金時代を迎えていたころに発見されたものですが、その頃の素粒子物理学を牽引していたジャイアンツの1人で「クォーク」という用語を命名したマレイ・ゲルマン (Murray Gell-Mann) が先月亡くなられたそうです。ゲルマンと言えば大学生のころに
読みましたが、内容は今では良く覚えていません。ゲルマンが晩年に研究していた複雑系の話が多く、ノーベル賞受賞に至った素粒子物理の話は期待していたほど載っていなかった印象があります。素粒子物理の黄金期のころの話はゲルマンが生い立ちから晩年の研究に至るまでの回想を語った貴重なインタビュー動画
のなかで様々に語られています。ストレートな語り口で面白かったです。また、ゲルマンの学生の一人で同僚でもあったスティーブン・ウルフラム(Stephen Wolfram:Mathematica, Wolfram Alphaの創始者)が個人的なエピソード交えた感動的なメッセージをこちらに公開しています。このなかでウルフラムが素粒子物理学の黄金時代(ゲルマンが八面六臂の活躍をした1960~1970年代)に成された重要な発見が人口に膾炙されていないことを嘆いています。興味深かったので原文を引用します。
At the time, it seemed to me like the most important discoveries ever were being made: fundamental facts about the fundamental particles that exist in our universe. And I think I assumed that before long everyone would know these things, just as people know that there are atoms and protons and electrons.But I’m shocked today that almost nobody has, for example, even heard of muons --- even though we’re continually bombarded with them from cosmic rays. Talk about strangeness, or the omega-minus, and one gets blank stares. Quarks more people have heard of, though mostly because of their name, with its various uses for brands, etc.To me it feels a bit tragic. It’s not hard to show Gell-Mann’s eightfold way pictures, and to explain how the particles in them can be made from quarks. It’s at least as easy to explain that there are 6 known types of quarks as to explain about chemical elements or DNA bases. But for some reason --- in most countries --- all these triumphs of particle physics have never made it into school science curriculums.And as I was writing this piece, I was shocked at how thin the information on “classic” particle physics is on the web. In fact, in trying to recall some of the history, the most extensive discussion I could find was in an unpublished book I myself wrote when I was 12 years old! (Yes, full of charming spelling mistakes, and a few physics mistakes.)
確かに物質を構成する基本粒子としてクォークとレプトンを知識として教えるのは化学元素やDNAの核酸塩基について教えるのと同じぐらい重要だと思います。現在のカリキュラムでは大学の物理学科に入らない限りクォーク模型について授業で習う機会がないのは人類の未来にとって残念なことです。ウルフラムも指摘するように今や「古典」ともいえる1960~1980年代の素粒子物理学の成果がネット上であまり共有されていないのはショッキングなことと言えるでしょう。そのような思いもあり今回の一連のエントリーでは昔のノートを取り出して$CP$対称性の破れについての復習過程をブログに公開することにしました。
最後のまとめとして以下では上述の通りナイアの教科書の議論を紹介します。標準模型の枠組みで$CP$対称性の破れを記述するにはクォークが3世代ないと説明つかないこと(小林・益川モデル)についての議論の後に続く部分(252~255ページ)の意訳です。
最後のまとめとして以下では上述の通りナイアの教科書の議論を紹介します。標準模型の枠組みで$CP$対称性の破れを記述するにはクォークが3世代ないと説明つかないこと(小林・益川モデル)についての議論の後に続く部分(252~255ページ)の意訳です。