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2019-06-18

中性K粒子系と弱い相互作用でのCP対称性の破れ1:標準模型の相互作用から

前回のエントリーでKメソン(中間子)の話が出てきたので昔のノートを取り出してK0¯K0系を復習することにしました。孔子の言う「学而時習之」の境地です。中性Kメソンのクォーク構成は dˉs であり、こちらのリストにもあるようにK0は擬スカラー中間子なので
K0ˉsγ5d,    ¯K0ˉdγ5s
と置ける。ただし、γ54次元時空でのガンマ行列を用いてγ5γ0γ1γ2γ3で与えられる。K0¯K0系は自然現象のCP対称性が保存されていないことが初めて実験により確認されたという点でとても重要です。この発見自体は1964年ですが、1980年にこの成果によりCroninとFitchが1980年にノーベル賞受賞しました。2000年代にはBファクトリーと呼ばれる実験施設(SLACおよびKEK)で大量の中性Bメソン(B0ˉbγ5d, B0sˉbγ5s)が生成され、B0¯B0系でのCP対称性の破れが確認されました。このCP対称性の破れを標準模型の枠組みで説明したのが我々日本人にはなじみ深い小林・益川モデルです。(2008年ノーベル賞受賞。このときKEKでのBelle実験の成果が受賞のはずみになった旨が報道されていました。益川先生ノーベル賞記念講演の日本語原稿はこちらです。)CP対称性の破れは理論上は存在してもおかしくない反物質がなぜ我々の世界には見られないのかを説明する有力な手掛かりとなっているためその現象の実験的・理論的な解明は今もなお素粒子理論研究の重要な分野の1つです。実際、ごく最近にも中性Dメソン(D0ˉuγ5c)の崩壊過程の観測からcharmクォークが関与するハドロンの崩壊過程におけるCP対称性の破れが初めて確認されました。(論文はこちら、その意義についての相原博昭先生による解説はこちらから。)

CP対称性の破れという言葉は何度も聞いたことがあっても専門家でない限りなかなかその真髄は分かりません。私も学部生の時に前述の相原先生の素粒子物理概論という講義で初めてCP対称性の破れについて聴いたときは、その意味がさっぱり分からず理解不能でした。物理なのだから第一原理(ラグランジアン)から考えれば分かるはずなのですが、そのラグランジアンが書き下されていないので困りました。そこで、当時書店にあった坂井典佑先生の『素粒子物理学 (物理学基礎シリーズ)』を購読してみると、そのようなラグランジアンは素粒子物理学の標準模型で与えられ、それを理解するには場の量子論でゲージ理論をマスターする必要があることを知りました。結局、大学院で場の理論を勉強してようやくCP対称性の破れについて理解できたような気がします。

K0¯K0の混合はsクォークが|Δs|=2だけ変化する以下のファインマン図で表される散乱過程を評価することで解析できる。
K0の崩壊に関与する相互作用は標準模型から
Lint=g2(W+μˉUiγμ1γ52DjVij+WμˉDjγμ1γ52UiVij)
で与えられる。ここで、Ui=(u,c,t), Di=(d,s,b)はそれぞれ3世代クォークのペアを表し、VijはCKM(Cabibbo-Kobayashi-Maskawa)行列の行列要素、gは弱い相互作用の結合係数、W±はWボソンを表す。上図の1ループ・ファインマン図で外線(d,sとその反粒子)の運動量はWボソンの質量MWや重いクォークの質量に比べて無視できるので、|Δs|=2となるK0¯K0混合を記述する有効ラグランジアンは
L|Δs|=2eff=Cˉsγμ(1γ5)dˉsγμ(1γ5)d+h.c.
となることが導出できる。その詳細については専門家による解説




を参照されたい。特にサイエンス社の教科書はこの計算の第一人者(の1人)である林(Lim)先生によるもので歴史的な経緯に沿ってとても詳しい解説がなされているので興味ある方は是非手に取ってもらいたい。上式(3)の係数Cはループ運動量の積分から求められ、
C=GF2i,jλiλjd4p(2π)4p2M4W(p2+MW2)2(p2+mi2)2(p2+mj2)2=GF2M2W16π2i,jλiλjAijAij=[11xi+xi2logxi(1xi)2][11xj+xj2logxj(1xj)2]
と表せる。ただし、λi=Vi1Vi2, xi=m2iM2Wである。GFはフェルミ結合定数GF=28g2M2Wである。こちらを参照するとクォークの質量(MeV単位)は mu2.4, md4.8, ms104, mc1270, mb=4680, mt171200で与えられ、Wボソンの質量はMW80400[MeV]なのでmuMW0, mcmt1と近似すると
CGF216π2[λ22m2c+λ23m2t+2λ2λ31(mcmt)2m2clog(mcmt)2]
が得られる。ただし、上で定義したようにλ2, λ3CKM行列要素で与えられる。
λ2=V21V22=s1c2(c1c2c3s2s3eiδ)λ3=V31V32=s1s2(c1s2c3+c2s3eiδ)
従って、位相δがゼロでなければCは複素数となり、このことからK0ˉK0混合でCP対称性が破れていることが議論されるのが一般的である。

ここでは議論を簡単にするためK0メソン系の低エネルギー有効作用を使ってラグランジアンがCP対称性を破ることを直接見てみよう。π0,K0など擬スカラーメソンの有効作用は標準模型のQCDラグランジアンに現れるカイラル対称性の自発的な破れ
G=U(3)L×U(3)RH=U(3)L+R
にゴールドストン定理を適用することで得られる。元となるカイラル対称性はmu, md, msが同じ質量をもつことを仮定しているので実際には完全な対称性ではない。そのため、生成される南部・ゴールドストンボソンは質量を持つがそのエネルギースケール(mπ140MeV)は強い相互作用によってカイラル対称性が破れるエネルギースケール 1GeV に比べると1オーダー小さい。これらは擬南部・ゴールドストン粒子と呼ばれ9つのメソン (π±,π0,K±,K0,ˉK0,η,η)に対応する。ゴールドストンの定理より南部・ゴールドストン粒子φの低エネルギー有効ラグランジアンは
LGB=f22μφμφ+O(φ3)
fは定数)で与えられる。(これは標的空間がG/Hの非線形シグマ模型とみなせる。)また、南部・ゴールドスノン粒子φの運動方程式はカレントJμ=f2μφ+O(φ2)の保存則μJμ=0で与えられる。K0メソンの場合、対応するカレントは
JK0μfKμK0+
fK=156[MeV]K0の崩壊定数)となる。この点について詳細はナイアの教科書


の309ページを参照してください。このカレントは軸性(axial)カレントJ(A)K0μ=ˉsγμγ5に対応するのでK0ˉK0系の低エネルギーではˉsγμγ5dfKμK0とおける。よって、(3)式のL|Δs|=2effはこのエネルギーレベルで
L|Δs|=2effLK0ˉK0effCf2Km2KK0K0+Cf2Km2KˉK0ˉK0
となる。mKK0メソンの質量 mK=497[MeV]である。ここで、擬南部・ゴールドストン粒子であるK0の運動方程式はK0が質量を持つため(軸性)カレントの保存則では表せないこと
μJK0μfK2K0+fkm2KK0
に注意しよう。このようにカレントは保存しないが、K0の質量による非保存の効果は小さいと期待される。というのも、ゴールドストン定理を(8)に適用するにあたり、メソンの質量項は(第一近似では)無視できるとして議論したからである。その意味で関係式(12)はPCAC(Partial Conservation of Axial-vector Current)と呼ばれる。

最後にLK0ˉK0effCP変換を考える。K0メソンが擬スカラー粒子(1)であることを用いると、CP変換されたK0メソンは
K0CP=ˉK0,    ˉK0CP=K0
となる。これよりK0ˉK0系の有効作用
SK0ˉK0eff(K0,ˉK0,fK,mK,C)=d4x LK0ˉK0eff
CP変換はSK0ˉK0eff(K0CP,ˉK0CP,fK,mK,C)で与えられる。よって、Cが実数ならK0ˉK0系の有効作用のCP対称性は保存されるが、実際にはCKM行列要素の精密な観測からCは複素数となることが分かっているため、K0ˉK0系有効作用のCP対称性は破れていることがわかる。この議論はクォークレベルでのラグランジアン(2)でも成り立つことが知られている。次回のエントリーではそのあたりのことをもう少し丁寧に見ていくことにしよう。

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