11.2 共形理論の例
この章では共形理論の例を取り上げて、計量テンソルのスケール変換のもとで理論の作用が不変であることを具体的に見ていく。
マクスウェル電磁理論
共形理論の典型的な例は光子の理論、つまりマクスウェルの電磁理論で与えられる。平坦なミンコフスキー空間におけるマクスウェル理論の作用は
S=−14∫d4xFμνFμν
で定義される。ただし、Fμν は電磁場のテンソル(場の強さテンソル)
Fμν=∂μAν−∂νAμ
である。光子の場 Aμ=(A0,Ai) は静電ポテンシャル A0 とベクトル・ポテンシャル Ai (i=1,2,3) で構成される。Fμν はμ, νについて反対称であるので、6つの非自明な成分があり、これらは3成分の電場 Ei と3成分の磁場 Bi で表せる。具体的には
F0i=∂0Ai−∂iA0=EiFij=∂iAj−∂jAi=ϵijkBk
となる。電磁場を用いると FμνFμν は
FμνFμν=ημαηνβFμνFαβ=η00ννβF0νF0β+ηijηνβFiνFjβ=2ηijEiEj+ηijηklFikFjl=2ηiiEiEi+ϵikmϵiknBmBn=−2E2+2B2
と表せる。ただし、E2=→E2, B2=→B2 である。これより、作用(11.9)は
S=−14∫d4x FμνFμν=12∫d4x(E2−B2)
と書ける。
つぎに、曲がった空間での作用を考える。9章で議論したように、強い等価原理(あるいは重力理論のゲージ原理)から、曲がった空間の作用は平坦空間の作用において通常の微分 ∂μ を共変微分 ∇μ に置き換えることで導出できる。ここで、電磁場テンソル Fμν はこの処方のもとで不変であることに注意する。
Fμν=∇μAν−∇νAμ=∂μAν−∂νAμ=Fμν
ただし、共変微分は ∇μAν=∂μAν−ΓβμνAβ と定義される。クリストッフェル記号 Γβμν はμ, νについて対称である。添え字を計量テンソル gμν で縮約し変数変換のヤコビアン √−g=√−detg を挿入すると曲がった空間上のマクスウェル理論の作用は
S=−14∫√−gd4x FμνFαβgμαgνβ
と定義される。
9.1節で言及したように強い等価原理はスピンを持つ粒子には適用されない。一方、弱い等価原理は光子と曲率との相互作用項を作用(11.16)に追加することを許容する。そのような相互作用項は
Sint=∫√−gd4x RαμνβFμνFγβgαγ
と表せる。ただし、Rαμνβ はリーマン曲率テンソルである。潮汐力に代表されるように物理現象において曲率の関与する項は微小である。よって、(11.17)のような相互作用項を無視して、(11.16)をマクスウェル理論の曲がった空間上の作用と見做せる。作用(11.16)は任意の4次元時空間で共形不変である。これは計量に関わる量の変換則
gμν→eΩgμν, gμν→e−Ωgμν,g=detg→e4Ωg, √−g→e2Ω√−g
から確認できる。歴史的には、マクスウェル理論の共形不変性は1910年頃に Bateman と Cunningham によって初めて示された。
質量ゼロ・スカラー粒子の理論
共形理論のもう1つの例はスカラー粒子の理論である。質量のあるスカラー粒子の曲がった空間上での作用は
S=∫√−gd4x(12∇μϕ∇νϕgμν−m22ϕ2)
と書ける。ただし、ϕ はスカラー場を表す。共変微分の一般的な定義
∇μTα1α2⋯αpβ1β2⋯βq=∂μTα1⋯αpβ1⋯βq+Γα1μαTαα2⋯αpβ1⋯βq+⋯+ΓαpμαTα1⋯αp−1αβ1⋯βq −Γβμβ1Tα1⋯αpββ2⋯βq−⋯−ΓβμβqTα1⋯αpβ1⋯βq−1β
から ∇μϕ=∂μϕ とおける。しかし、作用(11.19)の運動方程式を考えると2階微分
∇μ(∇νϕ)=∇μ(∂νϕ)=∂μ∂νϕ−Γλμν∂λϕ
が現れるので、作用(11.19)はクリストッフェル記号の寄与により一般の時空間では共形理論とはならない。よって、共形理論を求めるには平坦なミンコフスキー空間上の作用
S=∫√−gd4x(12∂μϕ∂νϕgμν−m22ϕ2)
を考えることが望ましい。ここで、計量は gμν=ημν=diag(+−−−) である。計量のスケール変換(11.18)のもとでスカラー場 ϕ が
ϕ→e−12Ωϕ
と変換すると仮定すると、質量ゼロ m=0 の場合、作用(11.21)は共形不変となる。これは4次元の質量ゼロ・スカラー理論はミンコフスキー空間上で共形不変であることを意味する。
同様に、d 次元時空間の質量ゼロ・スカラー場の作用は
S=∫√−gddx(12∂μϕ∂νϕgμν)
と表せる。ただし、gμν=ημν=diag(+−⋯−) である。計量のスケール変換 gμν→eΩgμν のもとでスカラー場の変換を
ϕ→e−14(d−2)Ωϕ
と定義すると、作用(11.23)はスケール変換 gμν→eΩgμν のもとで不変であることが分かる。つまり、ミンコフスキー空間上の質量ゼロ・スカラー理論は次元に依らず共形不変である。
曲がった空間上の質量ゼロ・スカラー理論
スケール因子が座標の関数 Ω=Ω(x) である場合、スカラー場と曲率の相互作用項を追加することで、曲がった空間上で共形不変な質量ゼロ・スカラー理論を構成することができる。4次元時空においてその作用は
S=S0+Sint=∫√−gd4x(12∇μϕ∇νϕgμν)+∫√−gd4x(R6ϕ2)
と表せる。ただし、R=Rναgνα はスカラー曲率(リッチ・スカラー)である。以下では、この作用(11.25)がスケール変換
gμν→˜gμν=eΩ(x)gμν, ϕ→˜ϕ=e−12Ω(x)ϕ
のもとで如何に不変であるかを見ていく。
作用の自由項 S0 のスケール変換は
˜S0=∫√−gd4x(12∂μϕ∂μϕ+14(∂⋅∂Ω)ϕ2+18(∂μΩ)(∂μΩ)ϕ2)
と計算できる。ただし、全微分項は無視した。スカラー場に作用する共変微分は定義より ∇μϕ=∂μϕ と表せる。よって、クリストッフェル記号 Γλμν の変換は ˜S0 に影響を及ぼさない。一方、(8.45)で見たようにリーマン曲率テンソル Rλμνα は Γλμν で定義されるので、リッチ・スカラーのスケール変換を求めるには、˜Γλμν の効果を考慮する必要がある。実際、Γλνα のスケール変換は
Γλνα → ˜Γλνα=12˜gλμ(∂ν˜gμα+∂α˜gμν−∂μ˜gνα)=Γλνα+Cλνα
と表せる。ただし、Cλνα は
Cλνα=12gλμ((∂νΩ)gμα+(∂αΩ)gμν−(∂μΩ)gνα)=(∂νΩ)δλα−12(∂λΩ)gνα
∇μϕα → ˜∇μϕα=∂μϕα+˜Γαμβϕβ=∇μϕα+Cαμβϕβ
と表せる。ここで、˜∇μϕα を用いるとリーマン曲率テンソルのスケール変換 ˜Rλμνα は
˜∇μ˜∇νϕα−˜∇ν˜∇μϕα=˜Rαμνβϕβ
と定義される。これより、
˜Rλμνα=Rλμνα+∇μCλνα−∇νCλμα+CλμβCβνα−CλνβCβμα
と求まる。対応するリッチ・テンソル ˜Rνα=˜Rλλνα は
˜Rνα=Rνα+∇λCλνα−∇νCλλα+CλλβCβνα−CλνβCβλα=Rνα+∂λCλνα−∂νCλλα−ΓβλαCλνβ+(Γλλβ+Cλλβ)Cβνα+ΓβναCλλβ−(Γλνβ+Cλνβ)Cβλα
と計算できる。ただし、共変微分の一般的な定義式(10.7)を用いた。
式(11.19), (11.20)で述べたように作用(11.25)の自由項 S0 で共変微分を用いると運動方程式のレベルで共形不変性が破れる。このことから平坦空間での共形理論(11.21)を導いた。しかし、曲がった空間では Γλμν はゼロとはならず、その構成から平坦な背景場を用いて共形不変性を導くことはできない。この問題を回避するために、(11.30)で定義したスケール変換された共変微分 ˜∇μ に注目して有効的な平坦性の条件を課すことを考える。つまり、「平坦性」の条件
˜Γλνα=Γλνα+Cλνα=0
を要請する。この条件はスケール変換された量がある種の平坦空間で定義されることを意味するが、実際の物理空間は Γλνα=−Cλνα≠0 を満たすゼロでない曲率を持つ。以下で見るように、この条件は曲がった空間上での質量ゼロ・スカラー理論(11.25)の共形不変性に不可欠であることが分かる。条件(11.34)のもとでスケール変換されたリッチ・テンソル(11.33)は
˜Rνα=Rνα+12∂ν∂αΩ−12(∂⋅∂Ω)gνα+14∂νΩ∂αΩ−14∂λΩ∂λΩgνα
と表せる。これに対応するリッチ・スカラーは
˜R=˜Rνα˜gνα=e−Ω(R−32(∂⋅∂Ω)−34∂λΩ∂λΩ)
となる。式(11.27), (11.36)から作用
S=∫√−gd4x(12∂μϕ∂νϕgμν+16Rϕ2)
が計量テンソルのスケール変換(11.26)のもとで不変であることが確認できる。ここで、通常の微分 ∂μ を共変微分 ∇μ で置き換えることはせず、「平坦性」の条件(11.34)から、恒等式 ˜∇μ=∂μ を課していることに注意する。
作用(11.37)の運動方程式は
∂μ∂νϕgμν+13Rϕ=0
で与えられる。スケール変換(11.26)のもとで、これは
˜∇μ˜∇ν˜ϕ˜gμν+13˜R˜ϕ=∂μ∂ν˜ϕ˜gμν+13˜R˜ϕ=e−32Ω(∂μ∂νϕgμν+13Rϕ)
と表せる。ただし、(11.36)の ˜R を用いた。上式は運動方程式(11.38)が共形不変であることを明示している。(11.39)には共変微分が関与しない。このことから曲がった空間上の共形不変なスカラー場の作用として(11.25)ではなく(11.37)を用いるのが妥当であることが分かる。
まとめると、曲がった空間での質量ゼロ・スカラー理論の共形不変性は作用(11.37)と条件式(11.34)によって実現される。この条件式はスケール因子 Ω(x) の座標依存性を関係式 Cλμν=−Γλμν で決定する。ただし、Cλμν は(11.29)で定義される。