2020年7月29日

Mathematical Review 106: gravity spectral action 最近の発展

最近は特に興味ある論文が回ってこなかったので Mathematical Reviews からの依頼を断っていたのですが、さすがに3回立て続けに断るのは良くないということで久しぶりに寄稿しました。詳しくはこちらから。(106番目のレビューです。)非可換幾何学を定義する spectral triple を使って重力モデルを構築するというアラン・コンヌ達が創始した分野の最近の進展についてでした。Spectral tripleを用いた物理モデルの作用のことを一般にspectral作用と呼びます。コンヌ流の厳密な定義に基づくため数学者には扱いやすいのかもしれませんが、場の理論に慣れている物理学者にとってはすこし取っ付きにくい枠組みです。

M理論の行列模型との関連で非可換幾何学は確かに一時流行しましたが、spectral tripleを用いて(コンヌの土俵に乗って)モデル構築をする物理学者は私の知る限りほとんどいません。同じ物理モデルを扱っているはずなのですが、spectral作用の発展については数学者任せになっているのが現状です。(個人的な見解です。)参考までにコンヌ流の非可換幾何学についての入門書が日本語で読めるので興味ある方はご覧ください。


今回レビューした論文では典型的なRobertson-Walker計量をもつ宇宙モデルのspectral作用が研究対象で、その作用の漸近展開を行うと組合せ論的、代数的に深い構造が見いだせるとのことでした。量子重力の散乱振幅の計算からも重力理論にはYangian対称性や組み紐構造があることが分かっているので興味深かったです。また、上記の結果をより複雑な宇宙モデルのspectral作用に応用するとゼータ関数で表される係数や補正項が現れるとのことです。飛ばし読みしただけなので詳細はよく分かりませんでしたが、興味ある方は論文のほうをご覧ください。

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