2019-11-18

Mathematical Review 104: light-cone quantization 雑感

久しぶりにMathematical Reviewsに寄稿しました。内容はこちら。いまや歴史的な存在の感のある光錐(light-cone)座標についてでした。シンプレクティック構造を用いた量子化(シンプレクティック量子化というらしい)を使って、light-cone座標での量子化を提案するという(モチベーションとしては)素朴なものでしたがこのあたりの基礎論的な内容は少しオールドファッションのようであまり人気はありません。確かに、使う座標が違っても物理的には同じことをしている訳なのだからフォーマルなことにこだわらなければスルーするような内容かもしれません。個人的には複素構造も加味して幾何学的量子化にまで言及してくれた方が話がすっきりしていいのになあという感想を持ちました。

Light-coneと言えば弦理論の量子化が初めて行われた座標ということで有名です。その第一人者の一人であるミチオ・カク先生はニューヨーク市立大学でお世話になりました。カク先生は早くから超弦理論の教科書を執筆されていて、私もその教科書で弦理論をかじっていたので大学院の授業でもてっきりカク先生が教えているのだろうと思っていましたが、実際には先生は執筆活動やテレビ・ラジオでの普及活動に忙しく、大学では学部生向けの天文学の授業しか講義されていませんでした。一度、その天文学の授業のティーチングアシスタント(TA)になって、授業を垣間見たことがあります。ベストセラーになった先生の著書



が参考図書になっていて充実した内容かつエンターテイメント性もあり学部生への講義のお手本のような授業でした。私がTAをしたころはVISONSをちょうど書き終えた頃でどちらの本も興味深く読みました。どちらも分かり易く書かれていてお勧めです。Hyperspaceのほうは弦理論に関連付けた多次元世界の解説、VISIONSのほうは素粒子理論家による未来予測といった内容だったと記憶しています。

カク先生と言えばいまやセレブの1人でしょうが、指導教官のナイアを介して一緒にランチをしたりクリスマスにご自宅に招待されたり直接会話する機会が何度もあったのは今思えば貴重な体験でした。誰にでも聞きやすい発音で堂々と淀みなく発言される様子はいつも感心させられました。ネイティブのアメリカ人でもあのように間違えなく堂々と話すことはできないことです。執筆活動でしっかりと吟味された内容を講演会やTVで幾度となくスピーチしているため、あのように意味のある言葉が機械的に次々と発せられるのでしょう。話を聞いているだけで圧倒された気分になったものです。一度、先生がサウジアラビア国王に招待されたときの話を聞いたときは圧倒されるというより、現代のユークリッドを見ているような気分になりました。先生の奥様は松戸出身の日本人でご自宅に伺った際にPhDを取ったらまたいつでも遊びにいらっしゃいと優しい言葉をかけていただきましたが、あれ以来お目に掛かれていないのは私の不徳の致すところです。

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