2020-09-17

最近のarXivから:2008.11260

遅くなりましたが、先月末にナイアがプレプリントを連投していたのでフォローします。先ずは、"Topological Terms and Diffeomorphism Anomalies in Fluid Dynamics and Sigma Models"

https://arxiv.org/abs/2008.11260

から。毎度のことですがナイアの論文を読んでいると学生に戻った気分になり身が引き締まる思いです。今回の論文では、まずターゲット空間が$\cp^2$となる(2+1)-次元シグマ模型にトポロジカル項がある場合、エネルギー・運動量テンソルの交換関係にはそのトポロジカル項で表される異常項が現れること、そしてそれはターゲット空間の座標変換不変性に起因することが詳説されています。このシグマ模型との類推で、非アーベル型に拡張できる流体モデルにトポロジカル項を追加することを考えるというのがこの論文のメインテーマです。

ここで非アーベル型流体モデルというのは Jackiw-Nair-Pi-Polychronakos によって開発された手法です。私がナイアの学生だった頃にナイアがJackiw達と精力的に研究していたテーマで、私より一つ上の学生の研究課題でもありました。Brookhaven National Laboratory (BNL) でのクォーク・グルーオンプラズマの物理現象を解析することがモチベーションの一つだったと記憶しています。この手法では(流体)速度のクレブシュ表示 (Clebsch parametrization)をもちいて完全流体のラグランジアンを書き下すことにより理論の非アーベル化や量子化、また磁気ヘリシティや渦と言った物理量に関連する項についての考察が可能となります。非アーベル化について詳しくはこちらを参照ください。

さて、論文2008.11260ではこの(非アーベル化されていない)流体モデルにどのようなトポロジカル項が追加できるかを前出のシグマ模型との類推で考察したものです。具体的に3つのトポロジカル項が構成され、その一つは(2+1)次元の流体において知られている渦のダイナミクスを記述する有効理論を導くことが示されています。さらに(3+1)次元に拡張するとこのトポロジカル項が渦糸の流体力学を記述すること、また別のトポロジカル項をもちいると渦糸で表される結び目や絡み目の流体力学が記述できることが予想されています。ここでは、さらっと結果だけまとめましたが当然ながら実際にはそれぞれの場合について具体的にエネルギー・運動量テンソルの交換関係が計算されその物理的な意味が議論されています。

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