前回の続きです。ナイアの最近の論文 "Matter-gravity coupling for fuzzy geometry and the Landau-Hall problem"
https://arxiv.org/abs/2008.11261
をフォローします。前回は Jackiw-Nair-Pi-Polychronakos 流体モデルの発展に関するものでしたが、今回はファジィ空間における物質場(ファジィ空間で表される物理系と結合する自由度)についての考察です。そのような物質場の有効理論はある種のチャーン・サイモンズ作用で与えられるというのが結論ですが、そのチャーン・サイモンズ項が一般にディラック指数密度で特徴づけられるとのことです。そこで、ディラック指数密度(Dirac index density)って何?ということになりますが、これはドルボー指数密度(Dolbeault index density)から複素構造を除いたもののようです。物質場の無い場合、ファジィ空間の背景場の揺らぎの有効理論はこのドルボー指数密度と関連したチャーン・サイモンズ項を用いて記述できることが、Karabali-Nair によって指摘されていました。
https://arxiv.org/abs/1604.00722
https://arxiv.org/abs/2008.11261
をフォローします。前回は Jackiw-Nair-Pi-Polychronakos 流体モデルの発展に関するものでしたが、今回はファジィ空間における物質場(ファジィ空間で表される物理系と結合する自由度)についての考察です。そのような物質場の有効理論はある種のチャーン・サイモンズ作用で与えられるというのが結論ですが、そのチャーン・サイモンズ項が一般にディラック指数密度で特徴づけられるとのことです。そこで、ディラック指数密度(Dirac index density)って何?ということになりますが、これはドルボー指数密度(Dolbeault index density)から複素構造を除いたもののようです。物質場の無い場合、ファジィ空間の背景場の揺らぎの有効理論はこのドルボー指数密度と関連したチャーン・サイモンズ項を用いて記述できることが、Karabali-Nair によって指摘されていました。
https://arxiv.org/abs/1604.00722
今回の論文は、同様な物理系において物質場と重力の相互作用がどのように現れるかを複素構造を持たないより一般的な場合にも拡張して調査したものであり、先行研究について知識が無いと読み進めるのに苦労すると思います。私も参考文献を読み返したりしているうちにいつの間にか一週間経ってしまいました。さすがにこれ以上放っておいても埒が明かないので強引にまとめてみます。
https://arxiv.org/abs/hep-th/0605007
からも理解できるとのことです。同じ日に流体力学についてのプレプリントも投稿されているしどんだけ守備範囲が広いのかと浅学の私はクラクラしてきました。今後もできる範囲で先生の論文をフォローしたいと思います。
まず、なぜドルボー指数が出てくるかというと、論文(10頁)でさらっと触れていますが、ファジィ空間上での物理系における正則偏極(holomorphic polarization)条件から、系の状態数が反正則微分の核(カーネル)の次元に対応しているため、この状態数はドルボー作用素の指数定理からドルボー指数で表されるからです。具体的にファジィ$S^2$, $\cp^2$空間の場合についてドルボー指数密度が書き下されています。ただし、物理系の時空間は$\M_F \times \R$($\M_F$がファジイ空間、$\R$が時刻)で表される。これらのドルボー指数密度は$U(1)$ゲージ背景場$A$の場の強さ$F=dA$と背景場の曲率$R=d \om$($\om$はスピン接続)で記述され、これらに対応するチャーン・サイモンズ作用は$A$, $\om$の関数として与えられる。この時、問題となる物質場の動力学はチャーン・サイモンズ作用の$A$を物理系のラグランジアン密度分だけシフトさせることで得られるというのが、この論文の要旨である。ただし、論文では量子ホール系との関連からハミルトニアンを使ってポアンカレ・カルタン形式(Poincare-Cartan form)という用語が出てくるが、これは物理系のラグランジアン密度と解釈するほうがすっきりする。
さらに、ドルボー指数密度に替えて、ディラック指数密度を用いるとより一般化された背景場についても同様の議論を行うことができる。これらの結果から対象となる物理系において物質場のダイナミックスは$S_{eff} = \int \rho (A, \om) \L$という有効理論で記述できることが分かる。ただし、$\rho$は指数密度で与えられ、$\L$は系のラグランジアン密度である。$S_{eff}$の具体的な形から、状態数が大きいとき(つまり可換極限では)物質場の有効作用において$U(1)$ゲージ場による項($F$で表される項)が優勢であるが、その次に優勢な項として曲率に依存した項($R$で表される項)が存在することが分かる。このような曲率依存項の存在は暗黒物質の問題と関連して興味深い研究対象となっている。
今回の論文では重力理論と量子ホール系さらにその背後にある数学的トピック(非可換幾何学、幾何学的量子化、指数定理)などが織り交ざり、これまでのナイアの研究の豊かさとその奥深さを垣間見た気がします。導出されたチャーン・サイモンズ項は重力理論と有限温度の場の理論でもある thermofield dynamics との関連
からも理解できるとのことです。同じ日に流体力学についてのプレプリントも投稿されているしどんだけ守備範囲が広いのかと浅学の私はクラクラしてきました。今後もできる範囲で先生の論文をフォローしたいと思います。